割引現在価値  


いま物価上昇率はゼロ、金利は5%であると考えます。 このとき、手元にある100万円と、1年後確実にもらえる100万円とでは どっちが価値があるでしょう?これは手元にある100万円のほうが価値があります。なぜならこの100万円を銀行に預けておけば1年後には利子がついて105万円になるからです。つまり

いま手元にある100万円 > 1年後確実にもらえる100万円

です。これはいいかえれば、1年後の100万円を 割り引いて評価するということです。 どれくらい割り引くべきでしょう。これは 具体的には利子率を用いて割り引きます。 じっさい1年後の100万円は現在時点では

100/1.05 = 95.2 (万円)

の価値しかありません。 現在の95.2万円と同じ価値ということです。 いま95.2万円を銀行に預ければ1年後には

95.2*1.05 = 100 (万円)

になるのでこう計算します。

▼ではいま手元にある100万円と、2年後確実にもらえる100万円とでは どっちが価値があるでしょう?

2年後の100万円は現在時点では

100/(1.05)2 = 90.7 (万円)

の価値しかありません。現在の90.7万円と同じ価値ということです。 いま90.7万円を銀行に預ければ2年後には

90.7*(1.05)2 = 100 (万円)

になるのでこう計算します。

▼けっきょく利子率が r のとき、 n 年後確実にもらえる A 万円は 現在時点では

A/(1+r)n (万円)

の価値しかありません。 このように割り引いた金額を割引現在価値といいます。 単に現在価値ともいいます。またこのとき用いた利子率を割引率といいます。


いま、収入の流れが

0年後 100万円
1年後 100万円
2年後 100万円
3年後 100万円

であるとしましょう。これらの収入の合計を現在時点で評価するときは 割引現在価値の総和を考えます*。つまり

100 + 100/1.05 + 100/(1.05)2 + 100/(1.05)3
= 100 + 95.24 + 90.70 + 86.38(万円)
= 372.3(万円)

です。 ところでこれは、初項 100 、公比 1/1.05 の等比数列の和ですね。

一般項 an = 100(1/1.05)n-1 
第 n 項までの和 Sn = 100(1-(1/1.05)n) / (1-(1/1.05)) 

です。


(*) ややこしいですが、 3年後の400万円の現在価値を考えるのではありません。 これは 400/(1.05)3 = 345.5(万円) です。 じっさい上のような流れで所得を得た場合、 まずもらった100万円を銀行に預けて、1年後に105万円にします。 また100万円をもらい、205万円を預けて、1年後に215.25万円にします。 また100万円をもらい、315.25万円を預けて、1年後に331.0125万円にします。 最後に100万円をもらって431.0125万円にします**。 この431.0125万円の現在価値を考えます。 これは 431.0125/(1.05)3 = 372.3(万円)です。

別々に割り引いたものを加えるのと、 利子がついた預金をまとめて割り引くのは同じことです。

現在価値
= 100 + 100/1.05 + 100/(1.05)2 + 100/(1.05)3 ← 別々に割り引いたものを加える
= (100(1.05)3 + 100(1.05)2 + 100(1.05) + 100) / (1.05)3
= (115.7625 + 110.25 + 105 + 100) / (1.05)3
= 431.0125/(1.05)3 ← 預金総額をまとめて割り引く
= 372.3

(**) この複利計算がわかりにくい場合は、 毎年100万円を別々の銀行に預けると考えてみてください。 4つの100万円を分けて考えるのです。

100(1.05)3 + 100(1.05)2 + 100(1.05) + 100
= 115.7625 + 110.25 + 105 + 100
= 431.0125

0年後の100万円をA銀行に3年間預ける 115.7625万円
1年後の100万円をB銀行に2年間預ける 110.25万円
2年後の100万円をC銀行に1年間預ける 105万円
3年後の100万円をD銀行に0年間預ける 100万円
預金の総額は 431.0125万円


◆参考文献

  • 『金融工学―ポートフォリオ選択と派生資産の経済分析』   
    野口悠紀雄、藤井真理子、ダイヤモンド社、2000年