倍追い法


「丁半」というバクチは知っていますよね?2つのサイコロを振って、出た目の合計が偶数(丁)か奇数(半)かで勝敗を決めるゲームです。 親 (dealer) がサイコロを振り、あなたは丁か半かに賭けます。勝てば賭け金が2倍になります。負ければ賭け金は親にとられます。勝つ確率は 1/2 、負ける確率は 1/2 です。 理論的には「コイン投げ」と同じです。

このゲームには有名な「必勝法」があります。それは「倍追い法」とよばれるものです。 まず1万円を賭けます。当たればそこで一度やめます。儲けは1万円です。もし外れれば、つぎは2万円を賭けます。当たればそこでやめます。儲けは1万円です。(4万円−3万円 = 1万円。)このようにして、当たらなければ賭け金を2倍にしていくという方法です。 当たれば必ず1万円が儲かります。ただしどこで勝っても儲けは1万円です。

昔話にこんなのがあります。借金を返せなくなった百姓に町人が「じゃあこうしよう。 明日コメを1粒もってこい。あさっては2粒。しあさっては4粒、そのつぎの日は8粒を持って来い」といい、百姓はそれを喜んで受け入れるが、あっというまにとんでもない量になり、町人が「これに懲りてもう借金はするな」という話です。

「倍追い法」の賭け金はこれと同じですよね。この必勝法は無限に大きな資金があることが前提で、なおかつ賭け金が青天井(上限がない)でなければいけません。あと相手が必ず勝負を受けるという前提も必要です。この条件を満たせば、この必勝法は 理論的に正しいといえます。しかし、現実にはこんな条件は不可能ですよね。

資金は有限です。いま資金が1000万円あるとしましょう。
賭け金は n回目には an=2n-1 (万円)になります。※1
n回目までの賭け金の合計は Sn=2n-1 (万円)になります。※2

n=9 のとき S=511
n=10 のとき S=1023

となるので、この方法は9回目までしか使えません。
9回つづけてはずすと511 (万円)の損です。
その確率は (1/2)9 = 1/512 です。

確率分布表を書き、期待値を計算してみましょう。

期待値は

Y
= 1(1/2)+1(1/4)+1(1/8)+・・・+1(1/512)-511(1/512)
= 1(511/512) -511(1/512)
= (511/512) -(511/512)
= 0

すなわち儲けはゼロです。資金をいくら増やしても同じです※3。実際には「控除率」があるので、その分損をします。


NOTES

※1 

等比数列の一般項  an=arn-1 (a は初項、r は公比)

※2

等比数列の和  Sn= a(1-rn) / (1-r)

※3

パラドックスに陥っているように見えますが、「資金をいくら増やしても」と「資金を無限にしても」というのは意味が違います。


◆参考文献
岡部恒治『ビジネスマンのための数学入門』