パスカルの問題


偶然に関する諸法則を研究する学問を「確率論」といいます。 確率論も、ゲーム理論と同じく、ゲームの研究から始まりました。確率論の場合は、ゲームの研究というより、ギャンブルの研究といったほうがよいでしょう。 確率論の創始者はパスカルとされています。パスカルがある友人から「もし賭博の途中で、警察に踏みこまれたら、どうやってお金を配分して逃げるべきか」と聞かれ、その答えを出したのです。そしてその話がフェルマーにも伝えられ、確率論が発展していったとされています。17世紀中頃の話です。

確率論の始まりは16世紀のカルダノとする意見もあります。カルダノはイタリアの医師で、 借金を返すために賭博をやり、それが確率論を研究するきっかけになったという、まさに奇人変人の数学者です。作家のドストエフスキーは、賭博でつくった借金を返すために本を書いたといわれますが、借金を返すために賭博をするとはなんともすごいですね。 カルダノが「2つのサイコロを振ったとき、どの目に賭けるのが有利か」を計算したので、カルダノが確率論の創始者だという意見です。じっさい、「サイコロ遊びについて」という論文を書いて、その中で「乗法法則」を導いているのです。

さて、そのパスカルが解いた問題というのは、こういうものです。

「AとBが30万円ずつ、合計60万円だして、3回勝負をしている。2回勝ったものが、60万円をもらえる。勝負は運だけできまるもので、1回ごとに勝つ確率は 1/2 である。もしAが1回目に勝ったときに、警察が踏みこんできたら、どうお金を配分して逃げるのがよいか。」

パスカルは樹形図を使い、答えを出しました。

「図からAが60万円もらえる確率は 3/4 である。一方、Bが60万円もらえる確率は 1/4 である。よってAが45万円、Bが15万円もらうのが合理的である。」

じつはこれは期待値の考えかたそのものです。すなわち

Aは 3/4 の確率で60万円がもらえるのだから、期待値は45万円
Bは 1/4 の確率で60万円がもらえるのだから、期待値は15万円

ということです。

賭け(一般には偶然事象)の結果が実現する前に、最終結果を予想する考えかたが、「期待値」とよばれる概念です。 期待値の考えかたは、ギャンブルにおいて非常に重要です。


カルダーノ(Girolamo Cardano)
イタリアの医師、数学者(1501-1576)。代数方程式の解法を研究。啓蒙家としても多くの著述を残した。


◆参考文献
岡部恒治『ビジネスマンのための数学入門』   
鈴木義一郎『確率でみる人生』