決勝ホームランを打ったバッターがヒーローインタビューで「カーブを狙ってました」と言います。すなわちその1球ではカーブを予測しカーブを待っていたというのです。
いったい何を根拠にカーブと予測できたのでしょう。素人にはわからない天性のカンなのでしょうか。
90年代はID野球というのがもてはやされました。
野村−古田の師弟コンビがID野球でヤクルトの黄金時代を築きました。
IDとはデータを重視するという意味です。
相手のクセを読み、それをもとに予測を立てるというものです。
さらにさかのぼると、西武の管理野球になります。広岡−森の両監督で一時代を築きました。バントや犠打を多用する全員野球・組織野球です。
日本の近代野球の始まりは、ドジャース戦法を導入した巨人のV9時代だといわれます。
ドジャース戦法の一例を紹介しましょう。2死2塁という状況を考えます。
ワンヒットで1点というケースです。この状況では、その1点を入りにくくする方法があります。
それは、ランナーのスタートを遅らせることです。どうすればよいのでしょうか?
それには、セカンドまたはショートが牽制に入るふりをすることです。
すなわち、ショートが2塁に入ろうとすると、ランナーは牽制だとおもい、2塁に戻ろうとします。ピッチャーは牽制球を投げず、そのまま投球します。仮にヒットを打たれたとしても、ランナーのスタートは遅れるので、得点することは難しくなります。
いまでは常識となっているようなこんなプレーも当時は斬新でした。
野球は Thinking Baseball といわれるように、思考が重要なスポーツです。
いいかえれば戦略思考・ゲーム理論の宝庫です。
★前代未聞のサイ配
2000年9月8日付けのニッカンスポーツにおもしろい記事がありました。
ヤクルト−阪神21回戦、阪神はヤクルトに7−2で敗れ、エース藪は9敗目を喫しました。
記事の全文をそのまま紹介します。
<ノムさん前代未聞のサイ配>
先発の読み間違い 初回先頭打者・塩谷に代打
まだプレーボール前。始球式がこれから行われようという時、野村監督が三塁ベンチを出た。右足を上げ、振り子打法を真似ながら、球審に「坪井」と告げる。先頭打者への代打という前代未聞の采配だった。
「(スコアラーの報告で)80%高木が来るというから。そこで負けてるわな」。
左腕高木の先発と読んだ野村監督は、坪井、タラスコを下げ、ズラリと右打者を並べた。1番に塩谷、8番に上坂を起用した。ところが、ヤクルトの先発はレモン。これに困った野村監督は、試合開始直後の先頭打者である塩谷に、いきなりの代打を送ったのだ。
坪井はその打席、右前安打を放ったが、ニ盗失敗。残り4打席は凡退した。
一方の塩谷は、初のレフトでのスタメンだったが、一度もフィールドに立てず「知らない。もういいでしょ」と口を閉ざした。柏原打撃コーチも「ウチは左の高木を読んだ。それだけのことや」と捨て台詞。相手先発の読み間違いが、何とも後味の悪い結果となった。
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プロ野球では先発投手を読むことが重要です。
パリーグが予告先発になったとき、オリックスの仰木監督はこれをフルに活用しました。
ほとんど毎試合異なるオーダーを組み、猫の目打線と呼ばれました。
ゲーム理論的に言えば「相手の戦略に対する自分の最適戦略を選ぶ」ということになるでしょう。
プロ野球ではローテーションが守られるのが普通なので、先発投手はだいたい予測できます。そしてそれに対応するオーダーを組みます。相手チームがさらにその上を行こうとして、先発投手を変えようとすることもできますが、ローテーションを崩すというコストがかかります。そこで相手チームは先発投手を変えてくることはないと、ゲーム理論でいう逆読み推量ができ、「80%の確率で高木」などというふうに読めるわけです。
この日の野村監督は確率20%に当たり、塩谷を浪費するという結果になりました。
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