青色7 


たまごっち。 人気が出てきたとき、ぜんぜん手に入りませんでした。 品不足がさらに需要を増大させました。 長い行列がニュースになりました。 それが宣伝になってブームを加速させました。 管理人もパチンコ屋の景品で見つけ、ついつい交換した ことをおぼえています。 正規品でないにもかかわらず、5000円相当の景品になっていました。 (正規品の定価は2000円。) あらゆるところでとんでもない価格で売買されました。 発売元のバンダイはたまごっちのおかげでセガの買収を回避できました。 やがて品不足はなくなり、どこにでも置いてあるようになりました。 同時にブームも終息していきました。しばらくすると 誰もが口をそろえて「何だったんだあれは」と言いはじめました。

たまごっちの事例で注目したいのがその供給についてです。つまり、 うまく供給をコントロールできれば、ブームがもっと長続きし バンダイや小売業者はもっと儲けることができた のではないか、ということです。 今回は、供給者が供給を制限することの利点について考えてみたいとおもいます。 供給を制限することで、供給者の立場が強くなることを、 カードゲームで説明してみます。


モームス女子大学中澤ゼミ(9人)。 夏休み前最後の授業です。 今日は卒業生のサヤカが特別にアシスタントとして参加しています。 サヤカは米国に留学しているのですが、 夏期休暇で何日か前に日本に帰ってきていました。

サヤカ < ひさしぶり〜

中澤教授 < 今日は2つのゲームをやってもらいます。 最初のゲームは私とやります。2つめのゲームはサヤカとやってもらいます。

いま、中澤教授は青色のカードを9枚もっています。そして 白色のカードを1枚ずつ9人に配ります。

中澤教授 < 私は青と白のカードのペアをつくって学部長に提出すると、1ペアにつき1万円もらえることになっています。ただしみんなで団結することはできないことになっています。 みんなの白のカードを私が買い取ります。 それでは誕生日の早い順に私の研究室にきてください。1人ずつ交渉します。 交渉に納得いかない場合は、また最後にきてください。

リカ1.19 マリ1.20 アイ2.7 ヒトミ4.12 ノノ6.17
なんかこわ〜い
カオリ8.8 ナツミ8.10 マキ9.23 ケイ12.6

このゲームはどういう結果になるのでしょう。 トップバッターのリカの戦略を見てみましょう。

リカ1.19 < 先生は青のカードを独占しているわ。わたしたちよりずっと強い立場ね。もし1000円でしか買い取らないって言ってきたらどうしよう。先生はわたしのことあまり好きじゃないみたいだし・・・。こまったわ。

リカは相変わらずネガティブです。

リカ1.19 < でもちょっとまって。 もしあんまり低い金額だったら断って一番最後にまわろう。 そうすれば先生は青のカードを1枚しかもっていない。 わたしとまったく同じ立場だわ。 ということは1万円を半分ずつ分け合うのが当然ね。

さすがリカです。その通りなのです。前期のゼミを通して ポジティブシンキングができるようになっていました。

他の8人もみな同じように考えました。 中澤教授もそれがわかっていたので、交渉は9回で終わりました。 中澤教授は最初から5000円を提示しました。 9人みんなと1万円の価値をもつパイを半分ずつに分けました。


さてこんどはサヤカのゲームです。

サヤカ < 中澤先生のゲームはスムーズにいったようね。 じゃあわたしのゲームを始めるわね。 最初のゲームとちがうのは、わたしは青色のカードを7枚しかもっていないということ。 あとは最初のゲームと同じよ。交渉する順番はじゃんけんで決めてね。じゃあ上の食堂で待ってるね。

サヤカは白のカードを1枚ずつ9人に配りました。 このゲームはどういう結果になるのでしょう。 全体のパイの大きさは7万円です。サヤカの取り分もみんなの取り分も最初のゲームより少なくなってしまうのでしょうか。

じゃんけんの結果、トップバッターはナツミに決まりました。

なっち < やっぱりサヤカ先輩がカードを独占しているのね。 でもこのゲームは最初のゲームと違って、何も もらえない人が必ず2人出る。一種のいす取りゲームだわ。 もし先輩が1000円の提示しかしなかったらどうしよう。 今回は最後に回るわけにはいかないわ。だってその交渉があるかどうかわからないもの。 あ〜、こまった。とにかく何ももらえないより1000円でももらったほうがいいわね。 よしきまった、いざ出陣だべさ。

ゲームは驚くべき結果になりました。 まず、じゃんけんに負けたカオリとヒトミは交渉すらできませんでした。 そしてナツミに続く6人はみんなナツミと同じように考えました。 サヤカはそれぞれの交渉で1000円の提示しかしませんでした。 サヤカは9000円×7=63000円の利益を得ました。 全体のパイ7万円のうち実に90%を得ました。 中澤教授のゲームの45000円より18000円も多いです。 全体のパイが小さくなったのに、サヤカの取り分は増えました。

じつはサヤカは2枚のカードを故意になくしていたのです。 そうすることによって自分の交渉での立場が強くなり、取り分が増えることを知っていたのです。 わざと全体のパイを小さくすることによって、パイの分配の仕方 が変わることを知っていたのです。 サヤカはある意味で不当に大きい分け前を得ました。 供給を制限することで、大きい利益を得ました。


もちろん、サヤカはそれを財布にしまいこんだりはしませんでした。 その日の夜、そのお金でみんなで焼肉を食べにいきました。

マリ < 塩タン  アイ < ぽっぽー

サヤカ < 青色がんばりなよ  ノノ < はい、がんばります


◆参考文献

  • 『コーペティション経営―ゲーム論がビジネスを変える』 
    バリー・J・ネイルバフ、アダム・M・ブランデンバーガー、日本経済新聞社、1997年
    CO-OPETITION (1997)