モームス女子大学中澤ゼミ(9人)、最初の授業です。
メンバーはかなり緊張気味のようです。
中澤教授はとにかくチャレンジすることの重要性を説いていました。
< 前置きが長くなったけど、最初の授業を始めるわね。
とにかくポジティブに行きましょう。ではさっそくこれから簡単なゲームをやってもらいます。
ルールは次のとおりです。
・いま、わたしの財布の中のこの100円玉をオークションにかけます。
・一番高い入札をした人が、この100円玉を落札できます。
・毎回必ず言い値は上がっていかなければいけません。
・誰も新しい入札をしなくなったとき、オークションは終わります。
・そしてここがこのオークションのポイントですが、2番目に高い入札をした人は、その入札額だけ
わたしに払わなければいけません。
じゃあ入札開始。 |
< はい、チャーミー1円です。
すぐにリカが手を上げました。
このまま誰も手を上げなければ、リカが1円で落札し、99円の儲けを得ます。
< んじゃー2円。
負けず嫌いのマキが手を上げました。
このまま誰も手を上げなければ、マキが2円で落札し、98円の儲けを得ます。
そして、リカは1円を失います。
< 10円! < 30えん!
過激派の2人が一気に競り値を上げました。
このまま誰も手を上げなければ、ノノが30円で落札し、70円の儲けを得ます。
アイは10円を失います。
< 35円! < 40えん!
だんだんアツくなってきました。
このまま誰も手を上げなければ、ノノが40円で落札し、60円の儲けを得ます。
アイは35円を失います。
< がんばれ〜。(こいつらやばい・・・)
ヒトミがクールに見ていました。
気付くと事態は変なものになっていました。
< 120円・・・ < 121えん・・・
なぜこんなことになったのでしょう。
じつは2人とも引くに引けない状況に陥っていました。
このゲームのポイントは
2番手のプレーヤーの苦しい状況です。
アイもノノも競り値が50円をこえたあたりから何かおかしいと感じていました。
アイの55円に対し、ノノが60円を付けたとき、
アイははっきりと異変に気付きました。
「なんで先生は100円を115円で売れんねん・・・」
アイは少しためらいました。
「でもここでやめると55円まるまる損する。しゃーない、65円や。もうちょっとの辛抱や」
アイが99円を付け、そしてついにノノが100円を付けたとき、アイはどう考えたのでしょう。
「ここでやめると99円の損や。でももし101円を付けて勝てば1円の損ですむ・・・。」たしかにそうです。しかし
こえてはならないラインをこえてしまいました。
その後も同じ状況が続きました。
「あと少しだけ・・・。」
ちょっとの差で大損か小さい損かという局面が繰り返し現れました。
いま自分からやめると大損をする、でもこのまま続くと・・・。泥沼状態です。
「ああ、なんでこんなことになったんや・・・」
「120円」「121円」、・・・、「260円」「261円」・・・。競り値が300円をこえたところで、アイが勝負をあきらめました。
アイは300円の損、301円で落札したノノは201円の損。
100円を601円で売った中澤教授は501円を儲けました。
アイたちはまんまとわなにはまってしまいました。入ると抜け出せない、まさにアリ地獄でした。
今回紹介したのはドルオークションというゲームです。
今から30年ほど前にシュービックというゲーム理論家によって開発された有名なゲームです。1ドル紙幣を競りにかけるというゲームなんですが、
それを今回は日本版の「100円オークション」にしてみました。
目の前に利益が転がっている。何もしなければ利益は得られない。
でも入り込むと抜け出せなくなる。わずかな勝利のための多大な投資。泥沼・・・。
戦争、軍拡競争もドルオークションです。
もうこんなに犠牲を出した、お金を使った、資源を使った、後には引けない。
事態はどんどんエスカレートしていきます。
戦争では負けたほうだけでなく、勝ったほうも多くの損失を出してしまいます。
どこで投資をやめればいいのかわからないという点、および
双方ともに損をするという点で
ドルオークションと同じです。
オークションの主催者は、ポジティブを煽ってイノセントな入札者を泥沼に陥れ、利益を得ました。ドルオークションという戦術は怖いです。
結局誰かが最初に100円を付けることが均衡点です。
誰かが最初に99円を付けたとします。
相対的なマイナスが重要なら、誰かが100円を付けようとするかもしれません。
動機・インセンティブはまだ残っています。
よって最初に100円を付けることが均衡点です。
もっとも、一番よいのはクラスで結束して誰かが1円を付けた時点でやめることです。
クラス全体では99円の利益が得られます。
競り値を上げることは、
共通の利益を損ねるということで
裏切り行為です。
この点では囚人のジレンマと同じです。
目先の利益にとらわれて合理的な行動をした結果、
共通の利益を破壊してしまう。しかし
思慮深く全体のことを考えて行動したとしても、利用されてしまうだけ。
囚人のジレンマと同じです。
一番悲惨なのは気付いたときにドルオークションの中にいることです。
アイとノノはいつのまにか狂乱のサイクルに巻き込まれていました。
しかし対立というのはそういうふうに始まることが多いのです。
◆参考文献
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