ミルク戦争  


モームス市の学校給食の牛乳は 「なっち乳業」と「かおりん牧場」のただ2つの企業によって生産されています。

なっち < 作りすぎはだめだべ
かおりん < おまえもな

いまなっちが x 単位、 かおりんが y 単位生産するとします。 すると総供給量は x+y です。 供給量が多いほど、価格は下がります。 そこで a を定数として、 p = a - (x+y) で価格が決まるとします。 また、1単位生産するのにかかる費用は c (定数)であるとします。

なっち乳業の利潤は

π1 (x, y)
= (a-x-y)x - cx
= -x2 + (a-c-y)x
= - ( x2 - (a-c-y)x + (a-c-y)2/4 - (a-c-y)2/4 )
= - ( x - (a-c-y)/2 )2 + (a-c-y)2/4

企業は利潤を最大にするのが目的なので、この関数の最大値を与える x を考えます。

いま、y を固定し、これを x の関数であると考えます。 グラフの形を考えましょう。これは上に凸の関数です。そして x≧0 に注意し、軸の位置で場合分けします。 つまり、軸が x<0 の位置にある場合は x=0 で最大値をとり、 軸が x≧0 の位置にある場合は x = (a-c-y)/2 で最大値をとります。

まとめると

なっち乳業は
(a-c-y)/2 <0 の場合 x = 0 で最大値をとる
(a-c-y)/2 ≧0 の場合 x = (a-c-y)/2 で最大値をとる

かおりん牧場 π2 は 、 x と y を入れ換えて、
(a-c-x)/2 <0 の場合 y = 0 で最大値をとる
(a-c-x)/2 ≧0 の場合 y = (a-c-x)/2 で最大値をとる


じつはこれは生産量を戦略とするゲームです。 上の場合分けをつぎのように読みかえてみてください。すなわち、

なっちは
かおりんが (a-c-y)/2 <0 の場合 x = 0 が最適反応
かおりんが (a-c-y)/2 ≧0 の場合 x = (a-c-y)/2 が最適反応

かおりんは、 x と y を入れ換えて、
なっちが (a-c-x)/2 <0 の場合 y = 0 が最適反応
なっちが (a-c-x)/2 ≧0 の場合 y = (a-c-x)/2 が最適反応

このゲームのナッシュ均衡を求めましょう。 ナッシュ均衡とは、お互いが最適反応をしている戦略の組合せでした。 ここで戦略の組合せというのは生産量の組です。 すなわち x と y の組であり、 xy平面上の点です。

なっちについて考えましょう。 (a-c-y)/2 < 0 ⇔ a-c-y < 0 ⇔ y > a-c の場合 x = 0 が最適反応で、 y ≦ a-c の場合 x = (a-c-y)/2 ⇔ y = -2x+a-c で定まる x が最適反応になります。この1次直線によって、かおりんの1つの y に対応してなっちの1つの x が決まるのですね。 そこでなっちの最適反応はつぎのグラフで表現できます。

かおりんについても同様に考えることができます。 x > a-c の場合 y = 0 が最適反応で、 x ≦ a-c の場合 y = (a-c-x)/2 で定まる y が最適反応になります。

では、お互いに最適反応となる x, y の組合せはどのように求めるのでしょう。 それは2つの曲線の交点ではないでしょうか。 なぜならば、上の曲線はなっちの最適反応となる (x, y) を示しており、 下の曲線はかおりんの最適反応となる (x, y) を示しています。 ということは2つの曲線の交点となる (x, y) というのは、 なっちとかおりんがお互いに最適反応している点ですよね。 しかもそれはただ1点だけです。 これがこのゲームのナッシュ均衡です。

交点は -2x+a-c = (a-c-x)/2 を解いて、
x = (a-c)/3
y = (a-c)/3

あるいは幾何的に考えてみます。 よく見ると交点は三角形の重心ですよね。 重心は中線を 1:2 に内分します。 そこで線分の比を考え交点の座標は ( (a-c)/3, (a-c)/3 ) です。


◆参考文献

  • 『ゲーム理論入門』   
    武藤滋夫、日経文庫、2001年

  • 『入門ミクロ経済学』   
    井堀利宏、新世社、1996年