ミルク戦争2  


「ミルク戦争」は同時に生産量を決定する同時進行ゲームでしたが、今回は「なっち乳業がまず生産量を決めて→そのあとにかおりん牧場が生産量を決める」という交互進行ゲームを考えます。

なっち < なっちもういっぱい作ったべさ。かおりんとこは少しでいいべさ。

かおりん < ・・・

このゲームは交互進行ゲームなのでツリーで表現することができますが、それぞれのプレーヤーの戦略は無限にあるので、下のようにして表すことにします。

さて、交互進行ゲームなので例によって後ろから解くことを考えます。

まず、かおりんの最適反応はすでに調べたように、

x > a-c の場合 y = 0
x ≦ a-c の場合 y = (a-c-x)/2 

です。

そして、なっちはこれを先読みして戦略を決めます。


(1)いま、なっちが x > a-c となる x を使うとしましょう。するとかおりんの最適反応は y = 0 です。これを前提にしてなっちは x を決めます。すなわちなっちは

π1 (x, y) = (a-x-y)x - cx

の y に 0 を代入したあとで、 x を決めます。

π1 (x, y)
= (a-x-0)x - cx
= (a-x)x - cx
= - x2 + (a-c)x
= - (x2 - (a-c)x)
 ・・・☆
= - (x2 - (a-c)x + (a-c)2/4 - (a-c)2/4)
= - (x2 - (a-c)x + (a-c)2/4) + (a-c)2/4
= - (x - (a-c)/2)2 + (a-c)2/4

この関数をグラフにかくと下のようになります。

式☆は - x ( x - (a-c) ) のように変形できるので、 x軸との交点は x = 0 , a-c となります。グラフは上に凸、頂点のy座標は正です。(ところで a>c です。 a は最高価格ですが、これが費用 c 以下だとすると、はじめから生産しません。)

そして変域 x > a-c に注意して最大値を求めると、これは0をこえないことがわかります。

(2)つぎに、なっちが x ≦ a-c となる x を使うとしましょう。するとかおりんの最適反応は y = (a-c-x)/2 です。これを前提にしてなっちは x を決めます。すなわちなっちは

π1 (x, y) = (a-x-y)x - cx

で y = (a-c-x)/2 としたあとで、 x を決めます。

π1 (x, y)
= (a-x- (a-c-x)/2 )x - cx
= ((2a-2x)/2 - (a-c-x)/2)x - cx
= ((a+c-x)/2)x - cx
 ・・・☆☆
= (1/2)(a+c-x)x - cx
= (1/2)(a+c)x - (1/2)x2 - cx
= - (1/2)x2 + (1/2)(a+c)x - cx
= - (1/2)x2 + ((a+c)/2 - c)x
= - (1/2)x2 + ((a-c)/2)x
= - (1/2)x2 + (1/2)(a-c)x
= - (1/2)(x2 - (a-c)x + (a-c)2/4 - (a-c)2/4)
= - (1/2)(x - (a-c)/2)2 + (a-c)2/8

この関数をグラフにかくと下のようになります。

式☆☆はやはり x ( (a+c-x)/2 - c ) = x ( (a-c-x)/2 ) のように変形できるので、 x軸との交点は x = 0 , a-c となります。

そして変域 x ≦ a-c に注意して最大値を求めると、これは (a-c)2/8 ( > 0) になります。


こうしてなっちはx ≦ a-c となる x を使うのがよいことがわかって、 そしてその x が (a-c)/2 ならば最適であるということがわかりました。

同時進行ゲームではなっちの生産量は (a-c)/3 でしたが、交互進行ゲームではその50%増しで作るとよいことがわかりました。かおりんはなっちの生産量を見たあと、 y = (a-c - (a-c/2))/2 = (a-c)/4 を作ります(25%減)。

「なっちが (a-c)/2 を作る → かおりんが (a-c)/4 を作る」。 これがこのゲームの部分ゲーム完全均衡です。


◆参考文献

  • 『ゲーム理論入門』   
    武藤滋夫、日経文庫、2001年

  • 『入門ミクロ経済学』   
    井堀利宏、新世社、1996年