2回繰り返しゲーム  


今回は囚人のジレンマを2回繰り返すゲームを考えます。 前回のように後ろ向きに考えれば、まず2回目のゲームは1回きりの囚人のジレンマと同じなので (裏切り, 裏切り) 、そしてそれがわかっているので1回目のゲームでも (裏切り, 裏切り) というふうになります。 今回はこの2回繰り返しゲームをツリーを使って考えてみたいとおもいます。


◆情報集合

まず1回きりの囚人のジレンマをツリーで表す方法です。

ヒトミ
マキ

これはまず場合分けの要領で考えます。 マキが協調の場合、マキが裏切りの場合に分けるのです。 そしてそれぞれの場合でヒトミが協調の場合、ヒトミが裏切りの場合を考えます。 すると下のようなツリーで表現することができます。

ところがこれはマキが先に動いてヒトミが後に動く交互行動ゲームと区別ができません。 囚人のジレンマではヒトミはマキの決定を知らないのです。 ツリーで言えば自分がどっちの点にいるかわからないのです。 どうすればよいのでしょう。 これは2つの点を丸で囲んでおけばよいのです。 こうすれば囚人のジレンマをツリーで表現することができます。

これはマキを先頭にしてかきましたが、ヒトミを先頭にしてかいてもよいです。

ここで点を丸で囲んだものを情報集合といいます。


◆2回繰り返しゲーム

まず、簡略化のために、1回きりの囚人のジレンマを下のようにかいておきます。

(マキを赤、ヒトミを青、協調を c 、裏切りを d としました。 また情報集合はグレーの線で表しています。)

では、2回の繰り返しゲームをツリーで表す方法を考えます。 これは、上のツリーの4つの末端に、上と同じツリーをくっつければよいのです。

そして新しい利得を考えます(下図)。 たとえば一番上は1回目のゲームで (協調, 協調) 、2回目のゲームで (協調, 協調) ということなので、 マキの利得は 3+3=6 , ヒトミの利得は 3+3=6 となっています。

◆部分ゲーム

ここで、ツリーの右上の部分

を見てください。 いま、この部分だけをゲームとして分析することができます。 すなわちつぎのゲームです。

ヒトミ
マキ

そして、このゲームでナッシュ均衡は(裏切り, 裏切り)です。

このようにツリーの中で切り離して分析できる部分を部分ゲーム(subgame)といいます。ツリーの中には全部で5つの部分ゲームがあります。 全体のゲームも部分ゲームといいます。

上から2番目の部分ゲームも同様に考えます(下の4つのツリーのうち左下のツリー)。 マキは c をとると 3 or 0 、 d をとると 5 or 1 なので d が支配戦略(絶対優位の戦略)です。 ヒトミも c をとると 8 or 5 、 d をとると 10 or 6 なので d が支配戦略です。 したがって (d, d) がナッシュ均衡になります。 上から3番目、4番目の部分ゲームも同様に考え (d, d) がナッシュ均衡になります。

◆部分ゲーム完全均衡

最後に、いちばん左の点から始まる部分ゲーム、すなわち全体のゲームを考えます。

ところが、上で求めたように、すでに2回目以降のゲームの流れは決まっているので、 いちばん左の点から始まる部分ゲームというのはつぎのようにかけます。

ヒトミ
マキ

この部分ゲームでナッシュ均衡は(裏切り, 裏切り)です。

けっきょくマキもヒトミも常に裏切るというのが部分ゲーム完全均衡になります。


◆囚人のジレンマの有限回繰り返し

3回繰り返しゲームを考えます。 まず第3期から始まる16個の部分ゲームは(裏切り, 裏切り)です。 最初の縮約で2回繰り返しゲームと同じ利得構造になります。 よって第2期から始まる4個の部分ゲームは(裏切り, 裏切り)になります。 つぎの縮約で1回きりの囚人のジレンマと同じ利得構造になります。 よって第1期から始まる1個の部分ゲームは(裏切り, 裏切り)になります。

こうして 3回繰り返しゲームでも「常に裏切る」の組が部分ゲーム完全均衡になることがわかります。

4回繰り返しゲームでも5回繰り返しゲームでも同じように考えていけます。

囚人のジレンマの有限回繰り返しでは それぞれのプレーヤーが常に裏切るというのが 唯一の部分ゲーム完全均衡になります。


◆参考文献

  • FUN AND GAMES : A TEXT ON GAME THEORY 
    Ken Binmore, D. C. Heath & Company, 1992 

  • STRATEGIES AND GAMES : THEORY AND PRACTICE 
    Prajit K. Dutta, MIT Press, 1999