再びお宝チケットのオークションを考えます。
前回の「オークション3」で参加者がもう1人増えたらどうなるでしょう。
ケイが参戦するとします。
どの参加者も他の参加者の評価額を正確には知りません。
他の参加者の評価額は0-10万円の間でどれも等しくありうると考えています。
さて、このオークションはどういう結果になるでしょう。なお細かくビッドできるので3人は同じ価格をつけることはないとします。
結論から先に言います。
いま自分の評価額(=自分のタイプ)がどんなものであっても、
いつもその2/3だけを入札額にすることを「2/3ルール」ということにしましょう。
するとこのゲームでは3人ともこの「2/3ルール」をとることがナッシュ均衡(ベイズ・ナッシュ均衡)になるのです。
確認してみましょう。
試しにリカの評価額が6万円であった場合を考えます。リカは
1. マリ・ケイの評価額はそれぞれ0-10万円の間でどれも等しくありうると考えています。
2. 同時にマリ・ケイが2/3ルールを使うと仮定しています。
3. 1, 2よりマリ・ケイの入札額はそれぞれ0-6.67 (=10(2/3)=20/3) 万円の間でどれも等しくありうると考えています。
リカはいくら入札すべきでしょう。まず6万円以下でなければ意味がないです。
6万円。勝ったとしても余剰は0です。
5万円。マリの入札額が5万円以下になる確率は5/(20/3)=15/20=3/4です。
ケイの入札額が5万円以下になる確率も3/4です。
したがってリカが落札する確率は(3/4)(3/4)=9/16です。
リカが落札しない確率は7/16です。
リカの期待値は (6-5)*(9/16)+0*(7/16)=9/16=0.56 (万円)になります。
4万円。マリの入札額が4万円以下になる確率は4/(20/3)=12/20=3/5です。
ケイの入札額が4万円以下になる確率も3/5です。
したがってリカが落札する確率は(3/5)(3/5)=9/25です。
リカが落札しない確率は16/25です。
リカの期待値は (6-4)*(9/25)+0*(16/25)=18/25=0.72 (万円)になります。
3万円。マリの入札額が3万円以下になる確率は3/(20/3)=9/20です。
ケイの入札額が3万円以下になる確率も9/20です。
したがってリカが落札する確率は(9/20)(9/20)=81/400です。
リカが落札しない確率は319/400です。
リカの期待値は (6-3)*(81/400)+0*(319/400)=243/400=0.61 (万円)になります。
どうも4万円ぐらいをつけるのがいいみたいです。
リカの割引率をk1 (0<k1<1) とします。
リカの入札額は6k1万円です。
マリの入札額が6k1万円以下になる確率は6k1/(20/3)=18k1/20=9k1/10です。
(ここで0<6k1<6<20/3です。)
ケイの入札額が6k1万円以下になる確率も9k1/10です。
リカが落札する確率は(9k1/10)2です。
リカの期待値は
(6-6k1)*(9k1/10)2+0*{1-(9k1/10)2}
= 6(1-k1)*(81k12/100)
= (486/100)(1-k1)k12
です。あらためて
f(k1) = (1-k1)k12
とおいてこれが最大値をとるときのk1を求めます。
f(k1) = -k13+k12
微分して
f '(k1) = -3k12+2k1
= -3k1(k1-(2/3))
0<k1<1に注意します。
f '(k1) は接線の傾きを表します。
k1=0.5における接線の傾きは正です。
k1=0.8における接線の傾きは負です。
k1=2/3における接線の傾きは0です。
したがって f(k1) は最初は増加(上り)、k1=2/3で極大(頂上)、あとは減少(下り)になります。(下図。) f(k1) が最大値をとるのはk1=2/3のときです。
4万円がベストです。
こうして
リカは評価額が6万円の場合、マリ・ケイが2/3ルールを使うと仮定すると、
2/3を書くのが最適であることがわかりました。
リカの評価額が8万円である場合はどうでしょう。
マリ・ケイが2/3ルールを使うという仮定のもとでは、
マリ・ケイの入札額は0-6.67万円の範囲なので、
リカは6.67万円をつければ勝てます。期待値は1.33万円です。
リカの割引率をk1とします。
リカの入札額は8k1万円です。
マリの入札額が8k1万円以下になる確率は8k1/(20/3)
=24k1/20=6k1/5です。
(いまリカは6.67万円未満を入札するならどうするかということを考えているので0<8k1<20/3です。)
ケイの入札額が8k1万円以下になる確率も6k1/5です。
リカが落札する確率は(6k1/5)2です。
リカの期待値は
(8-8k1)*(6k1/5)2 + 0*{1-(6k1/5)2}
= 8(1-k1)*(6k1/5)2
= (8*36/25)(1-k1)k12 (万円)
やはり2/3を書くのが最適です。
期待値は(288/25)(1/3)(2/3)2=(288/25)(4/27)=1152/675=1.71万円となります。
リカの評価額が4万円である場合はどうでしょう。
マリの入札額は0-6.67万円で等しくありえます。
ケイの入札額も0-6.67万円で等しくありえます。
リカの入札額は4万円以下でなければ意味がないです。
4万円。勝ったとしても余剰は0です。
3万円をつけると落札できる確率は{3/(20/3)}2です。 期待値は (4-3)*{3/(20/3)}2
= 1*{9/(400/9)} = 81/400 = 0.20 です。
2万円をつけると落札できる確率は{2/(20/3)}2です。 期待値は (4-2)*{2/(20/3)}2
= 2*{4/(400/9)} = 72/400 = 0.18 です。
1万円をつけると落札できる確率は{1/(20/3)}2です。 期待値は (4-1)*{1/(20/3)}2
= 3*{1/(400/9)} = 27/400 = 0.07 です。
リカの入札額は4k1万円です。
マリの入札額が4k1万円以下になる確率は4k1/(20/3)=12k1/20=3k1/5です。
ケイの入札額が4k1万円以下になる確率も3k1/5です。
リカが落札する確率は(3k1/5)2です。
リカの期待値は
(4-4k1)*(3k1/5)2 + 0*(1-(3k1/5)2)
= 4(1-k1)*(3k1/5)2
= (36/25)(1-k1)k12 (万円)
やはり2/3を書くのが最適です。
リカは 4(2/3)=8/3=2.67万円を入札し、
そのときの期待値は(36/25)(1/3)(2/3)2=(36/25)(4/27)=144/675=0.21万円です。
リカの評価額をV1とします。
リカはマリ・ケイの評価額がそれぞれ0-10万円の間でどれも等しくありうると考えています。
リカはマリ・ケイが2/3ルールを使うと仮定します。
リカはマリ・ケイの入札額がそれぞれ0-6.67万円の間でどれも等しくありうると考えます。
1. 評価額V1が6.67万円以上10万円以下のとき
リカは
(1) 6.67万円を書くか
(2) 6.67万円未満を書くか
で迷います。
(1)の期待値は V1-(20/3) 万円です。
(2)の期待値はつぎのように計算できます。
リカの割引率をk1 (0<k1<1) とします。
リカの入札額はV1k1万円です。
ここで0<V1k1<20/3です。
マリの入札額がV1k1万円以下になる確率は
V1k1/(20/3)です。
ケイの入札額がV1k1万円以下になる確率も
V1k1/(20/3)です。
リカが落札する確率は{V1k1/(20/3)}2です。
リカの期待値は
(V1-V1k1)*{V1k1/(20/3)}2 + 0*(1-{V1k1/(20/3)}2)
= V1(1-k1)*{V1k1/(20/3)}2
= V13(1-k1)k12/(20/3)2 (万円)
になります。
k1=2/3 のとき最大値
(V13)(1/3)(2/3)2/(20/3)2
=(V13)(1/3)22/202
=(V13)(1/3)4/400
=V13(1/3)(1/100)
=V13/300
をとります。
(1)と(2)はどっちがいいでしょう。
V1-(20/3) と V13/300 を比較します。
{V1-(20/3)} - (V13/300)
= -(1/300) (V13-300V1+2000)
(V1=10を代入すると0になることに目をつけます。)
= -(1/300) (V1-10) (V12+10V1-200)
= -(1/300) (V1-10) (V1-10) (V1+20)
= -(1/300) (V1-10)2 (V1+20)
6.67≦V1≦10より
上式≦0です。
V1-(20/3) ≦ V13/300 です。
つねに(2)のほうがいいです。リカは6.67万円未満ただし評価額のちょうど2/3を書くのが最適です。
2. 評価額が0万円以上6.67万円未満のときは
6.67万円未満でどうするかが問題なので1の(2)と同じです。2/3を書くのが最適です。
こうしてリカは、マリ・ケイが2/3ルールを使うと仮定すると、
自分の評価額がいくらであっても、2/3を書くのが最適であることがわかります。
つまり2/3ルールを使うことが最適です。
マリについても同じ議論ができます。
マリはケイ・リカが2/3ルールを使うと仮定すると、
自分の評価額がいくらであっても、2/3を書くのが最適であることがわかります。
ケイについても同じ議論ができます。
ケイはリカ・マリが2/3ルールを使うと仮定すると、
自分の評価額がいくらであっても、2/3を書くのが最適であることがわかります。
いま他の2人の2/3ルールを前提とするとプレーヤーは2/3ルールが最適です。
3人が2/3ルールを使うというのはナッシュ均衡(ベイズ・ナッシュ均衡)です。
一般に参加者がn人のときはどうなるでしょう。
いまリカの評価額を V1 、割引率を k1 、
第nプレーヤーの割引率をknとします。
参加者が2人のとき:
リカの期待値は、相手が半分ルールを使うと仮定すると
V12(1-k1)k1/(10(1/2)) = V12(1-k1)k1/(10k2) となり k1=1/2 が最適。
参加者が3人のとき:
リカの期待値は、他の2人が2/3ルールを使うと仮定すると
V13(1-k1)k12/{10(2/3)10(2/3)} = V13k12(1-k1)/(100k2k3) となり k1=2/3 が最適。
たぶん4人のときは k1=3/4 、5人のときは k1=4/5 が最適になるでしょう。
参加者が4人のとき:
リカの期待値は、他の3人が3/4ルールを使うと仮定すると
V14(1-k1)k13/(1000k2k3k4)
参加者が5人のとき:
リカの期待値は、他の4人が4/5ルールを使うと仮定すると
V15(1-k1)k14/(10000k2k3k3k5)
一般に参加者がn人のとき、
リカの他のプレーヤーたちが (n-1)/n ルールを使うと仮定すると、
リカの期待値は
V1n(1-k1)k1n-1/(10n-1k2k3...kn)
になります。式の真ん中の部分
(1-k1)k1n-1
をあらためて
f(k1) = -k1n+k1n-1
とおいて微分します。
f '(k1) = -nk1n-1+(n-1)k1n-2
= -nk1n-2 { k1 - ((n-1)/n) }
k1 = (n-1)/n のとき最適になります。
他のプレーヤーについても同様の議論ができます。
あるプレーヤーは他のプレーヤーたちが (n-1)/n ルールを使うと仮定すると、
自分の評価額がいくらであっても (n-1)/n を書くのが最適です。
いま他の n-1 人の (n-1)/n ルールを前提とするとプレーヤーは (n-1)/n ルールが最適です。
n人が (n-1)/n ルールを使うというのはナッシュ均衡(ベイズ・ナッシュ均衡)です。
◆参考文献
|