ベイズのケーキ  


モームス女子大学、学生ラウンジ。ある金曜日の午後です。 仲良しコンビのアイとノノがオリジナルの歌とダンス の研究をしていました。 向上心あふれる2人です。そこに出張帰りの中澤教授が現れました。「ケーキ買ってきたぜベイビー」。 どうやらパチンコで勝ったようです。 モームス市でケーキといえばそれはベイズ屋のケーキです。 もちろんアイとノノは筋金入りの「ベイジアン」です。

さてどうしたことか外見がまったく同じ箱が2つあります。何かイヤな予感がします。

中澤教授 < はい、差し入れ2択クイズです。片方の箱にはチョコレートケーキと イチゴのショートケーキが3個ずつ入っています。 もう片方の箱にはチョコが1個とイチゴが3個入っています。 あなたたちでどっちか1つの箱を選んでください。

もちろんアイとノノにとっては6個入った箱のほうがいいです。 しかしこれは 50:50 の賭けです。

中澤教授 < でも今日はサービスです。 どっちかの箱からケーキを1個だけとってみていいです。 それを参考にしてまた考えてください。

2人が片方の箱から1個とってみるとチョコが出ました。

 < チョコが出たってことは、この箱が当たりの確率が高いで。

 < そうれす。当たりの箱は 1/2 の高確率でチョコが出るれす。ハズレの箱は 1/4 の低確率れす。 つまり2:1でこっちが有利れす。この箱を選ぶのが合理的れす。

ケーキを目の前にして、ノノの様子がいつもと違います。


さて、情報を与えられたことでアイとノノが認識を改めるのは当然です。 まず、サンプルを見る前は、サンプルが当たり箱のものである確率は 1/2 と考えるしかないです。 しかしサンプルを見たあとでは、 この確率を修正してもいいはずです。 ではどう修正するのが妥当でしょう。 それには条件つき確率(別項参照)を考えます。 すなわち

サンプルがチョコであるという条件のもとで
サンプルが当たり箱のものである確率

を 考えるのです。

いま サンプルが

A:当たり箱のものである
B:チョコレートケーキである
C:ハズレ箱のものである

とします。すると、条件つき確率を考えて

P(A) = 1/2
PA(B) = 1/2
PC(B) = 1/4
P(C) = 1/2

です。そして求める確率は  PB(A) です。これは

より

です。

図でかくと下のようになります。

サンプルがチョコであるという条件のもとで、サンプルが当たり箱のものである確率は


  • サンプルをとったあとで、このゲームで考えるべき確率が変わりました。 サンプルをとるまえに考えた確率を事前確率、 サンプルをとったあとで考えた確率を事後確率といいます。アイとノノは情報を与えられて 事前確率を事後確率に更新しました。

  • ベイズの定理は条件つき確率の定義から導かれます。(別項参照)

  • P(A)=P(C)=1/2 の場合は分子分母が 1/2 で割れるので実際は ノノが計算したように PB(A)=0.5/(0.5+0.25)=2/(2+1)=2/3 とやればよいです。

  • サンプルがイチゴだった場合は、この箱が当たり箱である確率は 0.5/(0.5+0.75)=2/(2+3)=2/5 です。もう一方の箱が当たりである確率が 3/5 なので、こっちに賭けます。

  • このゲームから <情報とは不確実性を減らすもの>と定義できることがわかります。


    ◆参考文献

    • 『<不確実性と情報>入門』   
      金子郁容、岩波書店、1990年

    • 『基本統計学』   
      宮川公男、有斐閣、1999年

    • 『ゲームと情報の経済分析』 
      エリック・ラスムセン、九州大学出版会、1990年 
      GAMES AND INFORMATION : AN INTRODUCTION TO GAME THEORY (1989)