アメフトは巨大なチェス
これは相撲で言えば相手を外に出すか倒すかしたら勝ち、というのに相当します。 これだけで十分楽しめますが、十二分に楽しむためにはむしろそこに至る過程をウォッチしなければなりません。 アメフトの戦略性というのはとてもスケールが大きく、そして複雑です。 それゆえとても分析のしがいがあります。 ゲーム理論的に見ればアメフトは巨大なチェスです。 チェスはゲームの最終盤においては100%結果が見通せます。 ゲームツリーの最も後ろの部分の小さいサブゲームを解くことと同じだからです。 アメフトでもゲーム終了の直前についてなら簡単に分析できます。 アメフトの主な目的はタッチダウンをとることと述べました。 一つのTDで6点入り、主要な得点源になります。 だがこれだけではいまいちゲームに味がありません。 じつはアメフトにはもう一つ重要な得点源があります。 「フィールドゴール(FG)」です。 エンドゾーンの中央奥のほうに の形をした構造物があります。 これはゴールポストと呼ばれ、じつは通常ゲーム中 の上の部分にボールを蹴り入れると3点入ります。 フィールドゴールを一本決めることがすなわち勝ち。 アメフトではそんな状況になる試合がしばしばあります。ゲームが2点差以内のまま最終盤を迎えた場合です。そこでまず手始めにこういう状況を分析してみることにしましょう。
ニューイングランド・ペイトリオッツ対フィラデルフィア・イーグルスのスーパーボウルを考えます。 いま状況は
4Q残り0:38
とします。 ここでのフィールドゴール(FG)は即頂点を意味します。 イーグルスがやるべきことはより前進してFG成功の確率を高めることです。 ペイトリオッツはなんとか前進を抑えたいです。 さてここでイーグルスの実行できるプレイはラン、ショートパス、ミディアムパス、ロングパスの4種類であり、ペイトリオッツの実行できるプレイはラン防御、パス防御、ブリッツ(QB不意打ち)の3種類であるとします。(QB:クオーターバック。攻撃の司令塔。) プレイの組み合わせは全部で4*3=12種類あり、 イーグルスの選好順序は下のようになっています。 (ゼロサムゲームなのでペイトリオッツの選好順序はこの逆順になります。)
順位が高いことはより前進が期待できることを意味します。 たとえばイーグルスにとって期待獲得ヤード数が最悪になるのは、 ロングパスを狙ってブリッツされる場合です。(この場合期待獲得ヤード数はマイナス、つまり後退です。) ではイーグルスの最適プレイは何でしょうか?またペイトリオッツのそれは? 「互いに最適反応」をしているところ(ナッシュ均衡)は黄色いマスのところです。
◆参考文献
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