アメフトは巨大なチェス2  


ゲーム理論の最重要ポイントは先読みということです。 交互行動ゲームはまずゲームの終わりを見に行くことから始まります。 それから一つずつ前に戻ってきて最初の一手を決めます。 この方法はバックワードインダクションと呼ばれ、求めたゲームの解は 部分ゲーム完全均衡(SPE: Subgame Perfect Equilibrium)と呼ばれます。

フィラデルフィア・イーグルスアトランタ・ファルコンズのチャンピオンシップゲームを考えましょう。

状況は第4Q、イーグルス最後のドライブ中。得点16-21でイーグルスの5点ビハインドです。 イーグルスは残り2プレイで20ヤードゲインできれば逆転勝利、できなければ負けとなります。

いま残り2プレイをそれぞれ 3rd down, 4th down としましょう。 そしていずれのダウンでもイーグルスの可能なプレイは「10ヤード狙い」「20ヤード狙い」の2つだけとします。またファルコンズの可能なプレイはいずれのダウンでも「10ヤードディフェンス」「20ヤードディフェンス」の2つだけとします。

イーグルスの「10ヤード狙い」に対しファルコンズが「20ヤードディフェンス」をするか、 あるいはイーグルスの「20ヤード狙い」に対しファルコンズが「10ヤードディフェンス」をすると、その攻撃が成功する確率は1となります。

イーグルスの「10ヤード狙い」に対しファルコンズが「10ヤードディフェンス」をすると 攻撃が成功する確率は0.8、またイーグルスの「20ヤード狙い」に対しファルコンズが「20ヤードディフェンス」をすると攻撃が成功する確率は0.5になります。

そこでイーグルスの最適戦略はどういうものでしょうか? 1プレイに10ヤードずつ進むことを考えるか、あるいは 3rd down から20ヤードを狙っていくか。


ゲームの最後(4th down)から考えましょう。

ここで起こりうる事態の一つは、イーグルスが(勝つために)まだ20ヤードを必要としているということです。 この場合、イーグルスは「20ヤード狙い」をする他なく、ファルコンズもそれがわかっているので「20ヤードディフェンス」をします。

いま計算の簡単化のために、この試合から得られるペイオフは勝者 1 (敗者 -1) としましょう。するとイーグルスの「20ヤード狙い」とファルコンズの「20ヤードディフェンス」 の組み合わせから得られるイーグルスの期待利得は、プレイの成功確率0.5に1を掛けた 0.5*1=0.5 となります。

4th down で起こりうるもう一つの事態は、イーグルスが(勝つために)まだ10ヤードを必要としているということです。(3rd down でイーグルスが20ヤードゲインした場合、そこでイーグルスの勝利で、 4th down はありません。) この場合、イーグルスは「10ヤード狙い」「20ヤード狙い」の2つのオプションがあるし、 ファルコンズは「10ヤードディフェンス」「20ヤードディフェンス」の2つのオプションがあります。戦略の組み合わせは4つあり、それぞれの場合のイーグルスの期待利得は下の表のようになります。それぞれのセルは「攻撃が成功する確率*1+攻撃が失敗する確率*0」となっています。

これは一つの部分ゲームとして解くことができます。 計算してみるとイーグルスの最適なミックス比率は (10ヤード狙い, 20ヤード狙い)=(0.714, 0.286)となります。 またこの場合の期待利得は0.857です。


4th down で何が期待できるかはわかったので、 3rd down について考えましょう。

まずイーグルスの「10ヤード狙い」に対しファルコンズが「10ヤードディフェンス」をしてくるとします。この場合攻撃が成功する確率は0.8、失敗する確率は0.2です。 攻撃が成功した場合、残り10ヤードで 4th down へ進み、そのときの期待利得は0.857です。 また攻撃が失敗した場合、残り20ヤードで 4th down へ進み、そのときの期待利得は0.5です。 これらを総合すると「10ヤード狙い」と「10ヤードディフェンス」の組み合わせから得られるイーグルスの期待利得は 0.8*0.857+0.2*0.50 = 0.786 となります。

つぎにイーグルスの「10ヤード狙い」に対しファルコンズが「20ヤードディフェンス」をしてくるとします。この場合攻撃が成功する確率は1です。 ゲームは残り10ヤードで 4th down へ進み、このときの期待利得は0.857です。

イーグルスの「20ヤード狙い」に対しファルコンズが「10ヤードディフェンス」をしてくるとします。この場合攻撃が成功する確率は1です。 ゲームは終了し、イーグルスの利得は1*1=1です。

イーグルスの「20ヤード狙い」に対しファルコンズが「20ヤードディフェンス」をしてくるとします。 この場合攻撃が成功する確率は0.5、失敗する確率は0.5です。 攻撃が成功した場合、ゲームは終了し、そのときのイーグルスの利得は1です。 攻撃が失敗した場合、残り20ヤードで 4th down へ進み、そのときの期待利得は0.5です。 これらを総合すると「20ヤード狙い」と「20ヤードディフェンス」の組み合わせから得られるイーグルスの期待利得は 0.5*1+0.5*0.5 = 0.75 となります。


以上より 3rd down 以降の部分ゲーム(=全体のゲーム)は下のように縮小できることがわかります。

これを解くとイーグルスの( 3rd down での)最適なミックス比率は (10ヤード狙い, 20ヤード狙い)=(0.78, 0.22)となります。

したがってイーグルスの最適戦略というのは、 3rd down で(10ヤード狙い, 20ヤード狙い)=(0.78, 0.22)として、 4th down では上に述べたようにプレイすることです。


◆参考文献

  • GAMES OF STRATEGY 
    Avinash K. Dixit, Susan Skeath, W. W. Norton & Co, 1999