遅延費用


前回述べたように、一人の交渉人のパワーとテクニックとは「相手の予想をいかに変えさせるか」ということです。相手の予想を変えるものとして主に「遅延費用」「代替機会」「コミットメント」の3つが考えられます。

1. 遅延費用

カートマンとカイルの交渉を考えます。 いまカイルはその商品を明日にでも必要としているとしましょう。 この商品を今日中に手に入れないことにはとてもコストがかかります。 いっぽうのカートマンはあまり売ることを急いでおらず、 今日商品が売れなくてもたいしたコストにはなりません。 さらに2人はこの「遅延費用の差」を共通認識しているとします。 このとき明らかにカートマンのほうが強い立場にいます。 カートマンはかなり無茶な価格を言っても、カイルはどうしても今日中に手に入れなければならないのですから、それは受け入れられることになります。

この場合カートマンの相対的な「遅延費用の低さ」がカイルの予想を変えさせる根拠になっています。 「遅延費用の低さ」は交渉人の基礎的なパワーになります。 またここからこの遅延費用を操作するという考えが生まれてきます(テクニック)。


◆参考文献

  • THINKING STRATEGICALLY 
    Avinash K. Dixit, Barry J. Nalebuff, W. W. Norton & Company, 1993

  • 『経営戦略のゲーム理論―交渉・契約・入札の戦略分析』 
    ジョン・マクミラン、有斐閣、1995年 
    GAMES, STRATEGIES, & MANAGERS (1992)