レモンの市場


情報が不完全なために、悪いものが良いものを駆逐してしまうような市場は、経済学ではレモンの市場と呼ばれます。 (英語のレモンには不良品という意味があります。)

もし世の中で売られている牛乳の消費期限が一切わからなかったとしたらどうでしょう。(パックに何も書いてない。)恐ろしくて買えたものじゃありません。 こういう状況では明らかに牛乳の市場は成り立たないです。

ものの品質がわからない状況においては、消費者は期待値に基づいて行動するしかありません。もし悪いものが市場に出回っていると、その商品についての消費者の期待値は下がります。期待値が下がればとうぜん価格も下がります。 しかし価格が下がると、良いものは「割が合わないので」市場に出てこなくなります。 結果、悪いものしか取引されないことになる(=レモンの市場)か、あるいは 市場そのものが成り立たなくなることになります。

レモンの市場はゲーム理論では下のようなモデルで記述することができます。 (理解するには基本編の9と10の知識が必要です。)


非対称情報下で企業が学生を採用する下のようなベイジアンゲームを考えます。

HIGHとLOWは学生のタイプ(能力の高低)を表します。 wとはある賃金のことです。

このゲームで下記の戦略と信念の組み合わせはベイズ完全均衡になります。すなわち

学生の戦略: HIGHタイプでは市場から退出(Quit)し、LOWタイプでは w=10 を要求する。

企業の戦略: w≦10ならば採用し、w>10ならば採用しない。

企業の信念: 応募してくる学生は常にLOWタイプである。(HIGH:0 ; LOW:1)

学生の戦略を前提とすると、ベイズルールにより企業の信念は (0, 1) になります。このときw≦10で採用するのは最適行動です。 逆に企業の戦略を前提とすると、HIGHタイプの学生は(w≦10では利得がマイナスになるので)退出が最適です。LOWタイプの学生は w=10 で応募するのが最適になります。

この均衡はLOWタイプの学生しか市場に残らない状態、すなわちレモンの市場です。


◆参考文献

  • GAME THEORY WITH ECONOMIC APPLICATIONS 
    Scott Bierman, Luis Fernandez, Addison-Wesley, 1998