核抑止力論


核抑止力については以前「ゲーム理論の創始者」で簡単に説明しましたが、今回はそれをもう少し詳しく見てみます。(半分重複してしまうため、向こうのほうは削除しています。) なお、今回の内容を理解するには基本編の6(部分ゲーム完全均衡)の知識が必要です。

さて「核をもつことが戦争の予防になる」とするのが核抑止力論です。 冷戦において、アメリカは西ヨーロッパをソ連の攻撃から守らなくてはなりませんでした。

ソ連が西ヨーロッパを攻撃してきた場合、アメリカの選択肢は2つあります。 「通常兵器」で反撃するか、「核」で反撃するかです。 ゲームは下のようにかけます。(核戦争は世界の終わりを意味するので、こういう利得になっています。)

これを解くと、<アメリカ:通常兵器、ソ連:攻撃する>が解になります。 西ヨーロッパは攻撃されてしまいます。 アメリカが核を使うと脅しても、それは信憑性のない脅しです。

核抑止力論とは、最も単純には、何らかの方法で上の枝を折ってしまい(=コミットメント)、ゲームを下のようにすることです(※1、※2)。

この場合、<アメリカ:核、ソ連:攻撃しない>が解になります。西ヨーロッパは攻撃されません。


※1 アメリカは実際的には完璧に枝を折ってしまう必要はなく、「もしかしたら(=10%ぐらいの確率で)アメリカは核を使うかもしれない」とソ連が信じる程度に、それとなく脅せばよかった。

※2 映画「博士の異常な愛情」では、このようなコミットメントを達成する方法として、核攻撃に対して自動的に反撃する装置(Doomsday Device)が使われる。


◆核兵器問題に関するドキュメンタリー

  • 市民の20世紀(26回シリーズ) 第23回 21世紀への道 広がる核の脅威(BBC/WGBH、1995年)