課税のトリック


キャンディーのマーケットを 考えます。

いまキャンディーの需要は q=-200p+1000 で表されるとします。 ここで p はキャンディーの価格(price)、 q は需要量(quantity demanded)です。 たとえば価格が p=4(ドル) なら→ q=200(単位) というふうに 需要量が決まります。

いっぽうキャンディーの供給は q=800p で表されるとします。 ここで p はキャンディーの価格(price)、 q は供給量(quantity supplied)です。 たとえば価格が p=4(ドル) なら→ q=3200(単位) というふうに 供給量が決まります。

均衡における価格と数量はそれぞれいくらになるでしょう。 均衡価格は需要量と供給量が一致することから

-200p+1000 = 800p
1000p = 1000
p = 1(ドル)

です。 取引数量は q = 800(単位)です。 グラフにかくと下のようになります。 価格 p を縦軸、数量 q を横軸にとっていることに注意してください。

さていま政府がキャンディーの取引に課税することにしたとしましょう。政府は

1. 消費者からお金を取り上げる: キャンディー1単位につき50セント
2. 生産者からお金を取り上げる: キャンディー1単位につき50セント

の2つの方法があります。

そこで質問です。 いまあなたは消費者であるとします。 このとき方法1と2どちらがいいですか? 反対にいまあなたは生産者であるとします。 このとき方法1と2どちらがいいですか?

「消費者なら2、生産者なら1に決まってる」。 多くの方がそう思われるでしょう。 でもそれは間違っているのです。


方法1について考えましょう。 方法1は消費者の需要に影響を与えます。

たとえばある消費者はいままで3ドルのとき4単位を買っていたとしましょう。 するとこの消費者は2.5ドルのときはじめて4単位を買うようになります。 50セント余計に払うことを考慮に入れると、いままでより50セント安くてはじめてつじつまが合うからです。

同じ消費者はいままで4ドルのとき2単位を買っていたとしましょう。 するとこの消費者は3.5ドルのときはじめて2単位を買うようになります。 50セント余計に払うことを考慮に入れると、いままでより50セント安くてはじめてつじつまが合うからです。

このように消費者は以前より50セント下がったところで前と同じ量を 消費します。 すべての消費者について同様のことが言えます。 したがって いままで3ドルで400単位だった需要量が2.5ドルで400単位になり、 4ドルで200単位だった需要量が3.5ドルで200単位になります。 そこで 新しい需要曲線は下のようになります。 これは単にもとの曲線 p = -(1/200)q+5 を 垂直に0.5だけ下ろしたものです。 (これはいまはすこし理解しにくいとおもいますが、あとですぐに理解できるようになります。)

均衡における価格を求めます。

p = -(1/200)q+4.5
⇔ 200p = -q+900
⇔ q = -200p+900  と

q = 800p の連立方程式を解きます。

800p = -200p+900 
1000p = 900
p = 0.9
q = 720

均衡価格は90セントです。消費者はキャンディー1単位につき90+50=1ドル40セントを払うことになります。生産者はキャンディー1単位につき90セントを得ます。 これは50セントの負担を消費者40生産者10で分けたことになります。 (元の均衡価格は1ドルでした。)


方法2について考えましょう。 方法2は生産者の供給に影響を与えます。

たとえばある生産者はいままで3ドルのとき24単位を供給していたとしましょう。 するとこの生産者は3.5ドルのときはじめて24単位を供給するようになります。 50セントもっていかれることを考慮に入れると、いままでより 50セント高くてはじめてつじつまが合うからです。

同じ生産者はいままで4ドルのとき32単位を供給していたとしましょう。 するとこの生産者は4.5ドルのときはじめて32単位を供給するようになります。 50セントもっていかれることを考慮に入れると、いままでより 50セント高くてはじめてつじつまが合うからです。

このように生産者は以前より50セント上がったところで前と同じ量を 供給します。 すべての生産者について同様のことが言えます。 したがって いままで3ドルで2400単位だった供給量が3.5ドルで2400単位になり、 4ドルで3200単位だった供給量が4.5ドルで3200単位になります。 そこで 新しい供給曲線は下のようになります。 これは単にもとの曲線 p = (1/800)q を 垂直に0.5だけ上げたものです。

均衡における価格を求めます。

p = (1/800)q+0.5
⇔ 800p = q+400
⇔ q = 800p-400 

q = -200p+1000

の連立方程式を解きます。

800p-400 = -200p+1000 
1000p = 1400
p = 1.4
q = -280+1000 = 720

均衡価格は1ドル40セントです。 消費者はキャンディー1単位につき1ドル40セントを払います。 生産者はその1ドル40セントのうち50セントを政府に払うことになり、 1単位につき差し引き90セントを得ます。 これは50セントの負担を消費者40生産者10で分けたことになります。 (元の均衡価格は1ドルでした。)


こうして方法1でも方法2でも 消費者と生産者の負担は それぞれ40セントと10セントで変わらない ことがわかりました。驚きです。 この簡単なモデルは

法的には負担していなくてもじつは経済的には 負担している。 見える形では払っていなくても見えない形で払っている。 いっけん盗まれていなくてもほんとうは盗まれている

ということを主張しています。


◆参考文献
Steven E. Landsburg, PRICE THEORY AND APPLICATIONS