ふたたびキャンディーの取引を考えます。
方法1の課税では: 均衡価格は0.9ドル、取引量は720単位
方法2の課税では: 均衡価格は1.4ドル、取引量は720単位
でした。ところで前回は触れませんでしたが、方法1でも方法2でも取引量は720で変わらないことに注目してください。もともとの取引量が800単位なので10%も減っていることになります。
さてこの課税はよくないことだといえるでしょうか?
キャンディーを取引している人たちにとってはよくないでしょう。
では社会全体の観点からみた場合はどうでしょうか?
他の人たちすなわち
キャンディーを取引していない人たちにとってはよいことといえます。
なぜなら政府が回収した税金はその人たちのところへ
何らかの形で行くからです。棚からぼたもちです。
この額は 0.5(ドル/単位)×720単位 = 360 ドルになります。
損をする人もいれば得をする人もいるので
社会全体の観点からみた場合はなんともいえないかんじがします。
でもここで経済学(もしくは数学)が役に立つのです。
上のグラフをみてください。じつは
2つの曲線によって囲まれた部分(大きな三角形)の面積が
もともとのパイの大きさを表しているのです。
(なぜそうなるのかは次回以降説明しますので今回はそういうものとして
進んでください。)
三角形の面積は 5*800*(1/2)=2000 です。
したがってパイの大きさは2000ドルということになります。
(これは取引高:価格1ドル×取引量800=800ドルとはちがうことに注意してください。)
このやり方で課税後のパイの大きさも計算してみましょう。
方法1では三角形の面積は 4.5*720*(1/2) = (5-0.5)*360= 1800-180 =1620 です。
方法2では三角形の面積は 4.5*720*(1/2) = (5-0.5)*360= 1800-180 =1620 です。
方法1でも方法2でもパイの大きさは同じ1620ドルになります。
(2つの三角形は合同になっています。「1辺とその両端の角がそれぞれ等しい」or「2辺とその間の角がそれぞれ等しい」or「3辺がそれぞれ等しい」からです。)
したがって課税により 2000-1620 = 380ドルだけパイが小さくなったことになります。
キャンディーを取引していた人たちは380ドルだけ損失をこうむったといえます。
これで社会全体からみた損得を判断することができます。
・キャンディーを取引していた人たちは380ドルの損
・他の人たちは360ドルの得
社会全体では差し引き20ドルの損ということになります。
この損得勘定で良し悪しを評価するなら、この課税はよくないこと(悪)であるといえます。
◆Deadweight Loss (デッドウェイト・ロス)
キャンディーを取引していた人たちが380ドルを失っているのに
他の人たちは360ドルしか得ていません。
20ドルはどこに消えたのでしょうか?
・・・死んだのです。
政府に殺されたのです。
この20ドルはデッドウェイト・ロスと呼ばれます。
なんとも不吉な名前ですよね。
デッドウェイト・ロスは
すこし複雑ですが図形で示すことができます。
下の2つのグラフを見てください。
いずれのグラフにも黒色の小さな三角形があるとおもいます。
面積はいずれの場合もちょうど (1.4-0.9)*(800-720)*(1/2)=0.5*80*(1/2)=20 で、
消えた額と同じになっています。
方法1: 消費者に課税したケース。1.4は消費者にとっての価格(0.9+0.5)。
0.9は生産者にとっての価格(市場価格)。
方法2: 生産者に課税したケース。1.4は消費者にとっての価格(市場価格)。
0.9は生産者にとっての価格(1.4-0.5)。
なぜこれらの三角形がデッドウェイト・ロスになるのか。
なぜこれらの三角形が「魔のトライアングル」になるのか。
次回以降明らかになります。
◆参考文献
Steven E. Landsburg, PRICE THEORY AND APPLICATIONS
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