外部性とは何か


ヤグチ医院は小児科の開業医です。 マリ先生 マリ先生 の目の上のたんこぶは 隣のぶりんこ製菓 あいぼんののたん です。 工場の機械の出す騒音でまともに診療できないのです。

経済学ではこれを 「ぶりんこ製菓は負の外部性(Negative Externality)を もっている」といいます。

いま状況は下のグラフで表されます。

まずぶりんこは市場価格が1単位5ドルのお菓子を生産しています。 MCPはぶりんこの「私的な」限界費用曲線です。 (MCP=Marginal Cost Private)。

MCSはヤグチ医院の被るダメージを ぶりんこの限界費用に上乗せした「社会的な」限界費用曲線 です。 (MCS=Marginal Cost Social)。 社会全体からみたぶりんこのお菓子作りのコストというのは 騒音というコストを含めたものなので、 このような社会的な限界費用というのが考えられるのです。

さていまグラフから 「負の外部性」の大きさを計算できます。

まずぶりんこの生産量はQeです。Qeを超えるとコストが価格より高くなって 損をします。 したがってぶりんこの私的な費用というのはMCPの下の部分 E+F になります。(限界費用を0からQeまで積み重ねる)。 そしてトータルの社会的費用はMCSの下の部分 B+C+D+E+F になります。 そこで負の外部性の大きさは、 ぶりんこの私的な費用とトータルの社会的費用の 差 B+C+D になります。

負の外部性はつぎのような見方もできます。 まず2つの曲線の間の距離dはお菓子1単位当たりの限界的な外部費用を表しています。 ここで限界的な外部費用というのは、お菓子1単位を追加生産するとどれだけヤグチ医院に追加的なダメージを与えるかということです。 ぶりんこがQeまで生産すると、 1単位当たりdの外部費用がQe単位ぶんかかるので、 d*Qe がトータルの外部費用になります。 B+C+DはdをQe単位分積み重ねたものです。 (負の外部性は外部費用 External Cost ともよばれます。)

さて負の外部性はヤグチ医院にとっては大問題です。 ぶりんこに騒音を出すのをやめてほしいです。 そこでマリ先生は裁判所に行くことにしました。 法廷でユーコ・ナカザー判事 ナカザー判事  が出した結論はぶりんこの業務停止命令でした。 マリ先生の思惑どおりの結果でした。

しかしこの判決は社会的にみて望ましいものだったでしょうか?

判決前の社会的なパイの大きさを計算してみましょう。 これは

ぶりんこの生産者余剰 - 負の外部性(ヤグチ医院のダメージ)
= (A+C+D) - (B+C+D)
= A-B

です。

判決後の社会的なパイの大きさは

ぶりんこの生産者余剰 - 負の外部性(ヤグチ医院のダメージ)
= 0 - 0
= 0

です。

もし A-B がプラスの値だったらどうでしょう? 社会全体のパイの大きさを規準にすれば、 この判決は誤りであったといえます。


◆参考文献
Steven E. Landsburg, PRICE THEORY AND APPLICATIONS
David D. Friedman, LAW'S ORDER
ロナルド・H・コース『企業・市場・法』