ピグー税


前回見た「負の外部性」を うまく解決した人がいました。 イギリス人の経済学者 A.C.ピグーです。 その方法は以下のようなものです。

まず社会的にみてぶりんこ製菓 あいぼんののたん の望ましい生産量というのが考えられます。 それはQoです。これは社会的な限界費用曲線(MCS)を あたかも一人の生産者の限界費用曲線 のようにみなせばわかります。 Qo未満では(社会の)限界費用<価格なので損をしますし、 Qoを超えると(社会の)限界費用>価格なので損をします。 Qoの他は社会的にみて非効率です。

そこでなんとかぶりんこにQoを生産させたいです。 ピグーは言いました。「生産1単位につきdだけ課税すればよい。 そうすればぶりんこの私的な限界費用曲線(MCP)が 社会的な限界費用曲線(MCS)に一致する。ぶりんこはQoを生産する。」

そうなのです。 生産者に課税することによって 限界費用曲線が上にシフトすることは前に見ました。 そして1単位につきdだけ課税すればdだけ上にシフトします。 MCPはMCSに重なります。 ぶりんこの最適な生産量はQoになります。

これは見事な解法です。 社会的なパイの大きさを課税の前後で比較してみましょう。

まず課税前はすでに見たように 生産者余剰 A+C+D から外部費用 B+C+D を引いた A-B です。

課税後、 ぶりんこの生産者余剰はA、 外部費用はCになります。 そしてCだけ税収が入ります。 (このCはヤグチ医院への補償にあてます。) 社会的余剰は A-C+C = A になります。

全体のパイはBだけ大きくなりました。 個別に見ても、 悪者のぶりんこを懲らしめた上(生産者余剰は C+D だけ減る)、 ヤグチ先生 マリ先生 には喜んでもらえる(B+D だけダメージが減り、 Cの分は補償される)。 まさに勧善懲悪。してやったりです。この方法はピグーに敬意を表してピグー税(Pigou Tax) とよばれます。

・・・しかしこの方法は間違っているのです。 すべてが間違っているのです。


◆参考文献
Steven E. Landsburg, PRICE THEORY AND APPLICATIONS
David D. Friedman, LAW'S ORDER
ロナルド・H・コース『企業・市場・法』