コースの定理2


前回見た交渉による解決法では 取引費用ゼロを仮定していました。 そしてこのときピグー課税(政府の介入)が不要であることを 説明しました。 しかし取引費用がある場合でも ピグーの方法は不要(それどころか有害)かもしれないのです。


いまぶりんこは騒音をゼロにする 新しい機械を導入することができるとしましょう。 これにより外部費用がなくなり、 社会的な限界費用曲線(MCS)は 私的な限界費用曲線(MCP)に一致します。 社会的余剰はぶりんこの余剰 A+C+D と等しくなります。 そこでもし新しい機械の費用が C+D 以下なら、 トータルの社会的余剰はA以上になり、 ピグー税よりよい結果になります。

あるいはヤグチ医院は 騒音のないところへ診療所を移転することができるとしましょう。 やはり外部費用はなくなりMCSはMCPと一致します。 全体のパイはぶりんこのパイ A+C+D と等しくなり、 もし移転の費用が C+D 以下なら トータルの社会的余剰はA以上になります。

あるいはぶりんことヤグチ医院は 単独または共同で、 騒音をまったく聞こえなくする防音設備を 安く導入できるかもしれません。

こうして交渉にかわる方法でピグー税以上の結果 が出せるかもしれないことがわかります。


◆二重の誤り

今回見た交渉にかわる方法では ぶりんこが生産量を減らしていない ことに注目してください。 ピグーは交渉の可能性を考えていなかっただけでなく、 生産量を維持する可能性も 考えていませんでした。 これは ピグーが二重の意味で間違っていたことを 示しています。

◆インセンティブ

ピグー税が悪い大きな理由の一つは、 もしかすると安い方法で外部性を回避できるかもしれないのに、 それをする インセンティブをなくしてしまうということです。

今回の例でいえば、ヤグチ医院は すごく安い費用で防音設備を導入できるかもしれないのに、 ピグー税で補償されると それをする気にはならなくなります。 これは非効率な結果を生み出します。

◆Maximize the Pie

コース的な考え方を排除すれば、 非効率なことをどんどん積み重ねることになり、 全体のパイは小さくなって けっきょく個人の分け前も減ります。

◆外部性?

今回の例でヤグチ医院が診療所を移転する という解決法を考えましょう。 社会全体の効率ということからすれば、 これが正解になる可能性がある ということは明らかです。 しかしピグーの方法にこだわっていると 見えてこない解法です。

ピグーの方法では ぶりんこだけが問題の原因と考えます。 それゆえ「外部性」という言い方・考え方が出てきます。 しかしそれは間違っているのです。 この問題はぶりんことヤグチ医院の「結合」によって 引き起こされているのです。 ヤグチ医院がぶりんこの隣になければ問題は起きていないのです。 究極的にいえば、ぶりんことヤグチ医院が 同じ空気(環境)を使おうとした から問題が生じたのです。 ぶりんことヤグチ医院はあくまで対等な関係であって、 どっちか一方に非があるというわけではないのです。 はじめにピグーの方法のすべてが 間違っているといったのは こういうことです。

「外部性ではなく結合」。 これがコース的な考え方です。 コース的な考え方は 新しい解決方法が見えてくるので 非常に重要です。

車の運転者は人をはねて死なせたりケガさせたりします。 しかし交通事故は運転者と歩行者の「結合」によって起こるのです。 究極的には道路の同じ部分をいっしょに使おうとしたことから 起きる問題です。どっちが不注意でも起きます。 いま交通事故を減らすために、いかなる場合にも 運転者に責任をとらせる法律を作ったとしましょう。 歩行者は注意を払わなくなります。 結果として交通事故は減りません。


◆参考文献
Steven E. Landsburg, PRICE THEORY AND APPLICATIONS
David D. Friedman, LAW'S ORDER
ロナルド・H・コース『企業・市場・法』