関税の弊害


いま日本政府が輸入牛肉に関税(tariff)をかけるとしましょう。 これは日本人全体にとってよいことでしょうか? 関税により アメリカやオーストラリアの牛肉は 入ってきにくくなります。 日本の生産者にとっては競争相手が減る のでラッキーです。 さらに日本人全体には関税収入が入ってきます。 しかし 日本の消費者にとっては 価格が上昇するのでアンラッキーです。 けっきょくトータルでみて 関税は望ましいのでしょうか? NOです。


いまDは日本人全体の牛肉の需要曲線を 表しています。 またSは日本の生産者の牛肉の供給曲線を 表しています。 牛肉を輸入しないときは 価格と数量はこれらの曲線の交点になります。 牛肉を輸入するときは 価格はこれより下がって P0 になります。

価格が P0 のとき、 日本の消費者は Q1 を購入し、 日本の生産者は Q0 を生産します。 Q1-Q0 の分が輸入牛肉になります。

したがって関税がないときの社会的余剰は

日本の消費者の余剰: A+B
日本の生産者の余剰: C 

の合計 A+B+C になります。

いま輸入牛肉1単位につき5ドルの関税を かけたとしましょう。 輸入牛肉の価格は P0+5 ドルになります。 スーパーやレストランは高くなった輸入牛肉から 国産牛肉に切り替えます。 国産牛肉への需要が増え、国産牛肉の価格は P0+5 ドルのレベルまで上がります。 けっきょく国内の牛肉の価格は P0+5 ドルになります。

価格が P0+5 のとき、 日本の消費者は Q'1 を購入し、 日本の生産者は Q'0 を生産します。 Q'1-Q'0 の分が輸入牛肉になります。 政府は 5*(Q'1-Q'0) ドルの関税収入を得ます。

したがって関税をかけたときの社会的余剰は

日本の消費者の余剰: E+F
日本の生産者の余剰: G+K 
税収: I

の合計 E+F+G+I+K になります。

もとの社会的余剰は

日本の消費者の余剰: A+B = E+F+G+H+I+J
日本の生産者の余剰: C = K 

の合計 E+F+G+H+I+J+K でした。

したがって H+J のデッドウェイトロスが発生していることになります。

こうして関税は 日本人だけを考えた場合でも悪であることがわかります。


◆デッドウェイトロス

Hは日本の生産者の過剰生産による損失、 Jは日本の消費者の過少消費による損失です。


◆参考文献
Steven E. Landsburg, PRICE THEORY AND APPLICATIONS