価格支持の弊害


いまある産業の最低賃金が1単位1000円なのは低すぎるといって 政府が労働者保護のために1単位1500円より低い賃金で雇用するのを違法であるとしたとしましょう。政府が最低賃金を決めるのですね。 政府が最低賃金は決めるということは、 すなわち政府が価格の下限を決める(Price Flooring)ということで、 Price Ceiling と逆の操作になります。

最低賃金法によってこの産業の最低賃金は1単位1500円になります。 さてこれは労働者にとってはめでたい ことでしょうか?答えはNOです。

いま労働の需要と供給は下のグラフで表されます。 ここでは労働サービスを売買すると考えます。

最低賃金法の導入前後で社会的余剰を計算してみましょう。 まず最低賃金法導入前の社会的余剰は A + B + C + D + E + F です。 最低賃金法導入後の社会的余剰はどうなるでしょう。

まず労働サービスの買い手(企業)の余剰を求めます。 いま価格が1500円なので需要量はQaです。 いっぽうこの価格では供給量はQcです。 じっさいの取引数量はQaになります。 (Qc-Qaはいわゆる失業になります。) そこで企業の余剰はAになります。

つぎに労働サービスの売り手(労働者)の余剰を求めます。 いま労働者にとっての実際の価格はいくらでしょうか? これはけっして1500円ではありません。 500円です。 500円だからこそ供給量がQa となって需要量と一致しマーケットはクリアされます。

マーケットでの価格1500円と労働者にとっての実際の価格500円の差1000円の意味はこうです。

まずある労働者ごっちん マキ は求人誌を見て 会社に問い合わせます。 しかし募集はすぐに締め切ったとのこと。 翌日ごっちんはハローワークに行きます。 しかしそこで見たのはあふれかえる失業者たちでした。 ごっちんはまたも仕事を見つけることができませんでした。 ごっちんは翌日昔の知人に連絡をとり ようやく仕事をもらいます。

つまり仕事を見つけるためのコストです。 1500円では供給量(Qc)が需要量(Qa)をはるかに上回り、 仕事を見つけるための競争が激しくなります。 このデメリットが1単位当たり1000円ということです。 1単位当たり1000円デメリットがプラスされ 実際の価格が500円になってはじめて 供給量がQaになりバランスがとれます。

したがって労働者の余剰はFになります。

以上より社会的余剰は A + F になることがわかります。 こうして最低賃金法により全体のパイは B + C + D + E だけ減る ことがわかります。

社会的余剰の減少分 B + C + D + E はやはりデッドウェイトロスとよばれます。 C + E が過少供給による損失、 B + D が仕事を見つけるための競争による損失 です。


◆参考文献
Steven E. Landsburg, PRICE THEORY AND APPLICATIONS